丘に吹く風

時には地を這うように、時にはささやくように

親切との出会い

yonkichi, · カテゴリー:

旅先で人の親切にあう事は、とても嬉しい事だ。親切にもいろいろな種類があるのかもしれないが、それが困っている時に差し出された手であれば、尚更深く心にしみるものだ。町中を歩いていて、親切にあう事もごく稀にあるが、旅の中の出会いだと特にそれが感じられる。
初めての北海道ツーリングの時、もともと2人で行く予定だったのが、相棒は都合で行けなくなり、私が一人で北海道に向かった事は以前書いたと思う。そのツーリングでは、不安だらけのソロ・ロング・ツーリングだった。天気もあまりよくなく、テントは持たずにシュラフだけだった事から、宿になるような無人駅や安い宿を夕暮れになると探していた。またキャンプ場でもバンガローがあればそこでもよかった。
布部駅でSTB(ステーションビバーク)後、えりも方面に向かって走っていた。日高のあたりでバンガローのあるキャンプ場を探そうと思っていたが、いかんせん地図もいい加減なものだった事から、情報がなかった。ケンタッキーファームという所が、以前テレビかなんかでみかけていたので向かうが、あまりに高くて撤退。適当な寝床がみつからないまま、浦河という町までやってきた。
浦河ですっかり陽が暮れてしまい、駅前まで行ってビジネスホテルを旅行案内所で紹介してもらおうと思ったが、そんな施設もなかった。途方に暮れて港の方まで行って、軒下で寝ようかと思っていると、目の前を白バイがバイクを停めるように、おかもちを着けたカブが前に割り込んできて左手を斜め下に向けてとまった。私も何だかわからないうちに停車し、シールドをあけると、そのカブの人が降りてこちらにやってきた。
見た目はどうみてもそば屋の配達の人だ。結構年配のオジサンだった。
「オマエ、何をやってるんだ?」
私はこう答えた。
「いえ、泊まる所を探しているんです」
しばらく私のフルフェイスのヘルメットで見えにくい顔を覗き込んでいたが、こう言い放った。
「ついてこい」
カブに跨がり結構な勢いで走り出した。私はあわててシールドを降ろし、浦河の裏道を走り出した。
しばらく細かく曲がりながら走っていると、とある建物の前に停まった。私もその後ろに邪魔にならないように停め、イグニッションを切った。すると、そのオジサンはさっさと建物の中に入っていってしまった。
私はどうしていいのかわからず、とりあえずヘルメットを脱ぎ、握力がなくなりつつある手にへばりついたグラブを時間をかけて取った。すっかり真っ暗で、さてどうしたものかと不安は消えず、まずはその建物を覗き込んだ。その中は4人も座れば一杯のこあがりと、カウンター席だけの中華料理屋だった。いつのまにか、さっきのオジサンはカウンターの中に立ち、2~3人座っているお客に何か話しかけている。
ぼーっと突っ立っていると、いきなり「こっちに座れ」とぶっきらぼうに言われた。仕方なく周りに普通のお客さんがいない席を選んで座ると、目の前に山盛りの餃子が置かれた。「腹へったろう。食え。」と言われ、妙な雰囲気だが私はとても空腹だったこともあり、焼きたての餃子をむさぼり食べた。
料理を作りながら、少しづつ話をしてきた。どこから来た、とか、何日目だ、とかいう話だ。餃子をたいらげると、今度は野菜炒めのようなものが出てきた。山盛りのご飯と共に、これもすぐに平らげてしまった。この頃には泊まる場所の不安もあったが、まあ港の方で野宿でもしようとある程度覚悟がついていた。それよりも今、暖かくておいしい食事にありついている事が嬉しかった。
食べ終わってしばらくすると、他のお客さんもいなくなり、そのおじさんが横に椅子に座った。そして、この時は想像もしていなかった言葉をもらった。
「今晩泊まる所がねえなら、ここに泊まれ。こあがりで寝ればいい。」
本当に信じられない言葉で、これほど嬉しい出来事はなかったと思えるほど、感動してしまった。旅先でこのような親切に出会った事はなかった。私は一旦は覚悟していた見知らぬ土地での野宿から解放された事で、安堵感からよほどほっとした顔をしたのだろう。そのオジサンがビールを出してきて、こあがりに呼ばれた。
そのオジサンは蒲田さんと言い、店の片隅に地元の新聞の切り抜きが張られていた。どうやら、旅で困っている若者を一宿一飯の恩義を与えてやっている人で、何度か取り上げられていたらしい。でもこうも言っていた。
「誰でも泊める訳じゃねえ。オマエは面白そうな奴だったからな」
そんな会話もしていないのだが、雰囲気やその言葉使いがそうだったらしい。その後、どんな旅人が来たかとか、どういう旅をしてきたかとか、自分の将来の事、浦河という町の話などを遅くまでひたすら話をし、その後こあがりで自分のシュラフを出して疲れと満腹感と酔いで深い眠りについてしまった。
明け方に目がさめると、蒲田さんは既に厨房で仕込みをしていた。そして朝からだが、ラーメンを出してくれた。
「俺のラーメンはうまいぞ。札幌とかじゃ、みんな化学調味料だ。ウチはそんなもん一切使わない。全て自家製だ。食ってみろ。」
その塩ラーメンは本当においしかった。言っては悪いが、こんな人が立ち寄りもしない町の中に目立たないようにある中華料理屋だが、本当に今まで食べたラーメンのどれよりも、深い味がした。
感謝しきれないほど感謝を表せるだけ表し、私はこの店を去った。その翌年、日本縦断の旅の中、北海道に入ってまず目指した場所は、この中華料理屋だった。1年ぶりの再会を、蒲田さんはとても喜んでくれた。そして、うまいラーメンを食べて、色々な話をしたあと、また旅を続けた。
蒲田さんはその後、ラーメン屋を閉め、ガイドをされていたようだった。毎年の年賀状で連絡だけはしていたが、いつの年かぱったり来なくなってしまった。その後、怖くて浦河を通る事ができていない。
あのラーメンの味、初めての北海道、それもソロツーリングで出会った素晴らしい出会い。これもソロだったからこそ出会えたのだと思っている。いつかまた立ち寄って、蒲田さんを探そうと思っているが、いつのまにか短い旅のスケジュールで調整がつかず、おざなりになってしまっている自分が少々情けない。しかし蒲田さんならきっと、元気に何かに打ち込まれているのだろうと信じている。
写真は1987年、3年連続3度目に立ち寄ったその中華料理屋。
20050508.jpg

5 Responses to “親切との出会い”

  1. うりちゃん より:

    こちらには初めてカキコさせていただきます。
    旅人には、生涯忘れられない出会いがあるんですよね。
    怖くて浦河を通ることができないっていう、よんきちさんの気持ちがちょっと分かるような…。
    せっかく憧れの地に来たというのに、それだけで満足してしまったか(?)、ここんとこあまり出歩いていない(笑)ワタクシなのでありました。

  2. よんきち より:

    うりちゃん、ようこそです。(^-^)
    コメントありがとうございます。ちょっと昨日からドタバタしていて、お返事が遅れました。すみません。m(__)m
    浦河はでも、ちゃんと時間を作っていきたいと思っています。でもきっと、今では連絡先もわからないし、お店もなくなっているでしょうから、本気で探すなら役所回ったりしないといけなさそうです。ただ正直そこまでする気にもなれないし。中途半端でなら行かない方がいいかなんて、思ったりもしてしまいます。
    あと私としては蘭越のラーメン屋の味が懐かしいです。夕張ののんきやも情報によるとおばあちゃんが引退してしまったようですが、蘭越の「蘭越ラーメン」の田舎ラーメンがすばらしくうまかったので、もう一度食べたいと思いつつ、既に20年の年月が…
    消えていく場所も多くなってきましたが、そのまんまの場所は凄く嬉しく感じますよね。弟子屈、中標津、浜小清水、北見、帯広、札幌、苫小牧に知り合いが移住しましたが、みんなしっかり腰をおろしてがんばっているようで、その行動力もない私はやっぱりまだまだだなと思ってしまいます。
    また遊びにきてくださいね。(^-^)

  3. emi* より:

    あ・・懐かしい
    私の実家です。
    もしかしたら私ともお会いしていたのかもしれませんね。
    父(○○○ちゃん)はいま、旅館の仕事から
    いまは発破氏(ダイナマイト技師)として道内を回っています。
    今朝、実家に電話し、ここのブログのことを話ししましたら
    母が「そんな人がいてくれて嬉しいね。最近の中で一番嬉しいことだわ。 また店したいんだけどね」と喜んでおりました。
    連絡先ですが
    浦河なので「△△」で出せばつきますよきっと(笑
    あのお店の近くにあった海のソバの家に父と母はずっと住んでいます。
    職業はかわりましたが
    ○○○ちゃんは相変わらずあのままです^^

  4. emi* より:

    父が是非に連絡したいと先ほど電話で話しました。
    もし良かったらメールくれませんでしょうか?
    △△の電話番号はお店で使ってたのをそのまま今もっつかってます。
    私はその当時高校生だったかな・・。
    長女のemi*といいます。
    いまは2人の娘をもち、フォトグラファーという仕事をフリーでしております。
    この偶然を大切にしたいので・・・。

  5. よんきち より:

    emi*さん
    詳しいコメントありがとうございます。
    この記事は古いという事もあって、まあ検索対象になる事もまず望洋堂を知っている人以外はないと思うのですが、emi*さんとお父さんにご迷惑をかけたくないので、本名部分を伏せ字とさせて頂きました。m(__)m
    詳しくはメールでやりとりしましょう。本当にメッセージありがとうございました。(^-^)

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